REAL-TIME STORY

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⑫:『前哨』
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俺はXM兵器を破壊し、研究所を脱出した。
施設の外にはブラントが、車で待っていた。俺は運転席に乗り込み、彼と共にその場を後にする。
陽は高く昇り、霧は晴れ始めていた。だが俺の心には、あの男が最期に言っていた事が引っかかっていた。
奴が言っていた『上』とは何なのか。その疑問を俺は口にする。

「……ブラント、一つ聞きたい事が」
「なんだ?」
「なぜロシアの片田舎の一企業が、あのようなXM兵器を開発できたんでしょうか? 施設や警備の規模から見るに、あのような技術を生み出せるとは思えない」
「ジャック、君の言う通りだ。XMの研究には、莫大な予算と設備が必要だ。あの企業が、独力で開発できたとは思えない」
「後ろ盾があると? ロシアなら、XM企業のヴィシュラ・テクノロジー社?」
「その線も探ってみたのだが、直接的な繋がりは見えなかった。となると、考えられるのは――」

ブラントはそこまで言って、不意に口をつぐんだ。その表情が険しさを増していく。

「どうしました?」
「……ジャック、悪いが予定変更だ。今すぐ日本に向かってくれ」
「日本に?」
「ヒューロンが動いている。早急に対処すべき事が出来た」

俺はその言葉を聞き、目を見開く。
ヒューロン・トランスグローバル。かつてブラントが協力関係を結び、だが手を切った企業。
XM関連事業の利権を独占しようとするあの企業なら、例のXM兵器の開発に手を貸すのも判るが――

「しかし、なぜ日本へ? ヒューロンの本社は、中国にあるはずですが」
「理由は現地で話す。ともかく、頼む」

ブラントはそう言ってノートPCを取り出し、何かを調べ始めた。
俺はどこか不穏なものを感じつつ、車を空港に向けて急がせた。

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「ここが日本か……」

成田空港のラウンジに着いた俺は、警戒しつつ辺りを見回した。
周囲に怪しい者は見えない。平和な国の住人たちが、平和そうな顔で歩いているのみだ。

「ヒューロンの連中らしき者は見えませんね」
「ああ、だがこの先はわからない。目的地に急ごう」

ブラントに促され、俺は歩き出す。まずはレンタカーを確保しようと思った時、背後で悲痛な声が聞こえた。

「あの、すみません! 少し前に札幌行きの飛行機で、マイレージカード落としたんですけど……」

見れば気弱そうな青年が、サービスカウンターの受付嬢に何か喚いている。
彼にとっては大きな問題のようだが、俺から見れば平和なトラブルだ。

「平和な国だ。この日本でいったい、ヒューロンが何を……?」

俺はそう思いつつ、レンタカー屋を探して歩き出した。

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――ずっと後になってから、俺は気づく事になる。
この時見かけた青年が、俺にとっても世界にとっても、重要な存在になるという事に。

だが今は俺もアイツも、その事を知らない。
互いを知らぬセンシティブたちの道が交錯するのは、もう少し先の話だった……。


【Continued to 『Ingress the Animation』...】