REAL-TIME STORY

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⑦:『兵器』
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その後も俺はブラントと共に、世界中を『慈善事業』して回った。
アメリカから始まり、ブラジル・中国・イギリス・フランスの各国を、2ヶ月かけて回る旅も、終わりが近づいてきた。最後の目的地はロシア。キエフから西に50kmほど行った所に、彼の所有する病院があった。

キエフ空港からレンタカーに乗り換えて、目的地を目指す。
この季節のロシアは霧が濃い。昼間でも視界の効かない、白い闇の中を慎重に運転しながら、後部座席のブラントに尋ねた。

「ブラント。こんな辺境に、本当に難病専門の病院が?」

最後の目的地について、俺はそう聞かされていた。
走るほどに風景は寂しくなり、行く手には荒野と道路しかない。ブラントが静かに答える。

「……すまないジャック、君に隠していた事がある。最後の目的地は病院ではなく、ある企業の研究所だ」
「研究所?」
「そう、普通の研究所じゃない。XMを利用した兵器の開発施設だ」

バックミラーの中で、ブラントが重い顔をしている。

「この旅のもう一つの目的は、その施設の情報を集める事だったのだ。私は世界を巡る傍ら、各地の有力者と連絡を取り、ある企業について探っていた。そしてその研究施設が、このロシアにある事を突き止めた」
「なるほど……しかし、XMを利用した兵器というと?」
「『ダークXM』――それを使った兵器だ」
「ダークXM……?」
「緑でも青でも白でもない、『赤く輝くXM』。それは通常のXMより、遥かに破壊的な力を持つ。人の精神を破壊する事さえできる」
「そんなものを開発している企業があると……?」
「残念ながらな。私はその開発を止めようと手を回していたが、敵に感づかれた。アフリカに現れた襲撃者は、恐らくその企業の刺客だろう」

  そこまで聞いて、様々な事が腑に落ちた。
奴らが自ら命を絶ってまで、庇いたかった雇い主とは、その兵器を開発している企業なのだと。

「その企業を叩き潰すと?」
「ああ、私に算段がある。なんとかその研究所に、潜り込む事さえできれば――」

行く手を覆う霧の向こうで、何かが光るのが見えた。

「ッ!」

俺はとっさにハンドルを切る。一瞬後、霧を突き抜けて、ロケット弾が飛来してきた。