REAL-TIME STORY

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⑪:『暗黒』
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ダークスーツの男は、右手に拳銃を、左手にスマートフォンを持っていた。恐らくそれを使い、XM兵器を遠隔起動したのだろう。
俺は痺れる体に鞭打ち、奴を撃とうとした。だが一瞬早く、敵の撃った弾丸が俺の腕を捕え、銃が床に転がった。男が禍々しい笑みを浮かべて言う。

「無様だな、センシティブ。南アフリカでの礼をさせて貰う」
「……執念深いな。俺を殺す為に、わざわざここで待ち構えてたと?」
「貴様に敗れた責任を取るには、他に方法がなかった」

俺は反撃の術を探る為、フラッシュフォワードを使おうとした。だが能力は発動せず、未来の光景は見えない。男はそれを察したかのように言う。

「無駄だ。先ほどの光には、レゾネーターを破壊する効果がある。周囲のポータルは中立化し、青のフィールドは消えた」
「そこまで知ってるのか……? 俺の能力と、コントロールフィールドの関係まで」
「状況から推察した。この研究所に突入する前に、貴様がわざわざ青のフィールドを造った理由は、それ以外にないだろう?」

俺は舌打ちした。執念深いだけではなく、意外と頭も切れるらしい。黙り込む俺に、男が続ける。

「青のフィールドが形成されると、貴様の戦闘能力は異常に強化される……センシティブであるというだけでは、説明がつかない」
「……」
「貴様の能力は何だ? 青のフィールドの中では、何が起こる?」

男が詰問するように言う。それは今まで隠し続けてきた事実。俺の生命線とも言える能力。
だがここまで追い詰められれば、隠し通す意味はない。そう思って口を開く。

「……一瞬先の未来が見える力、『フラッシュフォワード』。それが俺の能力だ」
「未来、だと……!?」
「信じがたいだろうが、事実だ。それが俺の武器だった」

男は驚愕の表情を浮かべ、それから苦く笑った。「なるほど……」と呟き、俺に銃口を向ける。

「だがその未来もここで終わりだ。死ね、センシティブ」

そうして奴が狙いを定め、俺の額を撃ち抜こうとした時――
不意に研究室の中が、青い光に満たされた。

「!?」

異変を感じた男が、一瞬辺りを見回す。俺のARゴーグルから、ブラントの通信が響く。

《聞こえるかジャック、フィールドを張り直した!》

その言葉を待っていた。彼ならフィールドが破壊された時点で状況を察し、すぐに対応してくれるだろうと。
俺は痺れる体を無理やり起こし、銃に飛びつく。同時に男が銃を構え直し――
銃声が、交錯した。

「ッ……」

男が低く呻き、その口から血が溢れ出した。
奴の銃弾は、俺を捕らえていなかった。一瞬先の未来を読み、奴の射撃をかわしたのだ。
ダークスーツの男が、ゆっくりと崩れ落ちる。それを見下ろす俺に、奴は倒れたまま呟いた。

「化物、が……その体で、銃弾を避けるとは……!」
「余計なお喋りはせず、ただ撃つべきだったな」
「止むを、得ん……聞き出しておく必要が、あった……」

俺はその言葉に眉根を寄せた。男は懐から通信機を出し、不敵な笑みを浮かべる。

「フラッシュフォワード、先読みの力……情報は、『上』に伝わった……」
「何だ……? 何を言っている?」
「覚悟するがいい、センシティブ……貴様らの未来に、希望はない……!」

男がそう言って、がくりとうなだれる。俺は不穏なものを感じつつ、その骸を見据えていた……。