REAL-TIME STORY

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⑤:『転機』
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俺は依頼に従い、一路ブラントの住む南アフリカに向かった。研究所を訪ねると、眼鏡をかけた優男に迎え入れられた。
資料で顔は知っていたが、実際に会ってみると、どこか印象が違った。科学者というよりは、哲学者のような雰囲気。それがブラントの第一印象だった。
彼は会うなり、単刀直入に切り出した。

「ジャック・ノーマン。君の力を見込んで、私の護衛を頼みたい」
「誰に狙われている?」
「一種の過激派――『エンライテンド』と呼ばれる人々の、一部の勢力だ」

俺はその言葉に眉根を寄せた。職業柄、世界中の過激派について知っていた俺も、聞いた事がない組織だったからだ。
怪訝そうにしている俺に、ブラントは―言った。

「順序立てて説明しよう。なぜ私が狙われているのか、そしてなぜ君を指名したのかを」

それは、俺がこれまで知らなかった、この世界の別の真実だった。

そう。そこで俺は、初めて知ったのだ。
少し前に、スイスの物理学研究所で、人間の精神に影響を及ぼす未知の物質が発見された事。
XMと名付けられたその物質を巡り、秘密裏に争いが始まっていた事。
ブラントがレジスタンスの一員として、対立勢力のエンライテンドに命を狙われているという事。
そして俺のフラッシュフォワードが、XMに由来する能力だという事も――。
エンライテンド自体は、XMを自然のままに守ろうとする勢力だった。だが一部の勢力が過激派となり、レジスタンスと対立しているという。

「――つまり君は、XMによって特殊な能力を開花させる者。『センシティブ』と呼ばれる、極めて希少な存在なのだ」

困惑する俺に、ブラントはそう告げた。俺は懐疑の視線を返す。

「理解はできたが……なぜ俺が、そのセンシティブだと判った?」
「私はセンシティブを探し出す為の、独自の情報網を持っている。その情報網に、『どんな危険な戦場からも生還する傭兵』の存在が引っかかった。そこに興味を持って調べていく内に、君がセンシティブであるという確信に至った」
「……」
「私は君の力を必要としている。どうか引き受けてくれないだろうか?」

俺はしばしの沈黙の後、頷きを返した。
30代の半ばを過ぎ、戦場暮らしに疲れていた。ボディーガードも楽ではないが、戦場よりは少しはマシだ。そう思って引き受けた仕事だった。

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当時のXMを巡る情勢は、今とは別の形で緊迫していた。
世界中にスキャナが出回り始め、一部の民間人にもXMの存在が、徐々に知られつつあった頃。その裏でXMの研究者たちが、次々に命を落としていた。
ブラントもまたその一人として、エンライテンドの過激派に命を狙われていた。幾度となく殺されかけながらも、彼はXMの研究を続けていた。
その意志がどこから来るのか、俺には疑問だった。その事について尋ねた時、ブラントは笑って言ったのだ。

「XMには我々の理解が及ばぬ秘密が隠されている。『人の心に影響を与える物質』――それは対立と悲劇に満ちたこの世界を救う、唯一の福音になるかもしれない」

俺の中に何かが生まれた。
俺は幼い頃から、戦場に身を置いてきた。世界から争いが無くなる事など、決して無いと思っていた。
だがこの男は、自分の命を顧みず、そんな世界を変えようとしている。その意志に俺は、希望を見出したのだ。

人生の転換点が、そこにある気がした。この男を死なせてはならないとも思った。
そうして俺は傭兵を辞め、ブラントのボディーガードとなった。
いつかブラントの願いが果たされる日まで、彼を護るために――。