路地裏で襲撃者たちを倒した後、俺はその連中を見下ろした。揃いのダークスーツを着て、拳銃で武装した、屈強な男たちを。
(しかしこいつら、なぜ俺たちを……?)
俺の上司は敵が多い。こいつらがどこの手先か、確かめる必要がある。
気絶している男のひとりを引き起こし、頬を張った。
「う……」
男が呻き、瞼を開ける。俺はその額に銃を突き付け、少々荒っぽいインタビューを始めた。
「起き抜けに悪いが、聞きたい事がある。どこの者だ? 誰に雇われた?」
「……」
男は表情を強張らせ、口をつぐむ。
「素直に答えれば殺しはしない。自分の命と、雇い主、どちらが大切か考えろ」
男が選んだのは『後者』だった。
奴は返事の代わりに、奥歯に隠していた何かを噛んだ。とっさに口を開かせようとしたが、遅かった。
男は笑みを浮かべて俺を見据え、絶命した。
死んだ男を地面に横たえ、立ち上がると、路地裏から声が響いた。
「……命を捨ててでも明かせない雇い主とは」
振り返ると、そこに俺の上司が立っていた。
クリストファー・ブラント。理知的な顔に眼鏡をかけた、長髪の優男。
「また君に命を救われたな、ジャック」
ブラントは男の死体を見下ろして、哀しげな表情を浮かべる。
俺は気絶しているもうひとりに向かって歩き出す。
「待てジャック、彼らも同じ選択をするだろう。もう、やめておくんだ」
「奴らはあなたの命を奪おうとした」
「だとしてもだ。失われて良い命などない」
俺は肩をすくめた。いつもの人道主義だ。甘いとは思うが、それが彼の生き方なのだから仕方がない。
遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。銃声を聞いて駆けつけてきたのだろう。
「行きましょう、ブラント。長居は無用です」
「やむを得ないな。彼らの事は警察に任せよう」
そう言うブラントと共に、路地を後にする。そのまま大通りに出て、タクシーを拾った。
「空港まで」
タクシーの運転手が妙な顔をした。
「この時間にかい、旦那がた? 飛行機はもうないぜ」
「いいから行ってくれ、急ぎだ」
途中でパトカーとすれ違ったが、呼び止められる事はなかった。
「チャーター機を用意してあります。アメリカまでは約15時間。その間に少しでも休んで下さい」
「君もだ。ジャック。この国では君に『力』を使わせ過ぎてしまった」
ブラントはそう言って微笑むと、静かに寝息を立てはじめた。
クリストファー・ブラント。レジスタンスの一員にして、世界中を飛び回る天才科学者。
彼の命を護るのが、俺の仕事だった。