REAL-TIME STORY

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⑧:『再生する魂』
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その後、XMの悪影響により精神にダメージを受けた患者たちは、東京に移送される事になった。
私が勤めていた東京の研究所には、私が被験体となる事で採取された、様々なデータとノウハウがある。今回の患者たちの治療にも、そのノウハウが利用できると、ヒューロン上層部は判断したのだ。

私も患者たちの担当研究員として、彼らを伴って日本に帰国した。日本の研究所のスタッフも、すぐに患者の受け入れ態勢を整え、治療と研究を開始した。
XMが人の精神に与える影響については、まだ解明されていない点が多い。患者たちを治療するには、その解明を急ぐ必要がある。だから私も同僚たちも、寝る間を惜しんでその研究に取り組んだ。

私は、彼らにつきっきりで対応した。
根気強く話しかけたり、優しく手を握ったりして、心の傷が癒されるのを待つ。最初は無反応だった患者たちも、徐々に心を取り戻していった。
治療が開始されて半年ほど経過した、ある日の事――。患者の一人だった少女が、研究室のベッドに寝たまま、私にこう尋ねて来た。

「サラ先生……先生はどうして、そんなに優しいの?」

その頃には患者たちも、会話が可能なほど回復しており、私は『先生』と呼ばれるようになっていた。私は少女の問いに、微笑んで答える。

「別に特別な事じゃないよ」

彼女は微笑み返し、天井に目を移して呟いた。

「……先生みたいな人は初めて。今まで色んな人に騙されたり、いじめられてばっかりだったから」
「……」
「世の中が先生みたいな人ばっかりだったら、よかったと思うんだけど……そうもいかないよね」

少女は諦めたように笑う。その表情に、胸が詰まった。
患者たちはみな貧しく、身よりのない人々ばかりだった。彼女もまた貧困の中で、社会や人々に痛めつけられ、希望を失っていったのだろう。
だけど世界が悪意に満ちていたとしても、善意もまた確かに存在する。自分が受け取った善意を、次の人に繋いで行けば、世界はきっと良くなっていくはずだ。
彼女の手にそっと触れる。

「……あなたはきっと今まで、優しい人たちに会えなかっただけ。世の中にはそういう人が、たくさんいるよ」
「そう……? 先生がそう言うなら、信じてみようかな……」

そう言った彼女の表情は儚かったが、わずかに希望の色が浮かんでいた。