REAL-TIME STORY

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④:『変わりゆく世界』
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ヒューロンに入社して、私の人生は一変した。
ヒューロンは、世界中に研究拠点を広げていた。私は日本支社に配属され、研究員として働き始めた。

それまで科学雑誌などでしか見た事のなかったXMの研究に関わる事で、私は空っぽの心が徐々に満たされる気がした。
その秘密を解き明かす事は、自分自身の謎を解き明かす事でもあったからだ。

なぜ私の眼にはXMが見えるのか?
私以外にも、同じようなセンシティブはいるのか?
センシティブとは、XMとは、ポータルとは何なのか――?

謎は次から次へと現れ、私はその解明にのめり込んでいった。必要なものは、全てヒューロンにあった。
XMを分析する素粒子解析装置や、XMが人間の脳に及ぼす影響を算出するCTスキャナなど、個人では決して入手できない、高価な最新機器。それらはXMの謎を解き明かす為に、なくてはならないものだった。

私のように肉眼でXMが見える者は、どこにもいなかった。
センシティブとは『XMの影響により特殊な才能を開花させる者』の事。私は、特に稀な存在らしい。
その事実を知った時、幼い頃から悩まされてきた自分の特質を、誇らしく感じた

やがて私は自分の特質を、研究に活かそうと思うようになった。
恐らく私の脳は、普通の人とは違う構造をしている。その構造を分析すれば、XMが人の頭脳に与える影響も、私の特質の秘密も判るのではないか?
そう思った私は、研究所の上層部に申し出た。『私の身を被験体として、XM研究を進める』事を。

むろん人体実験は倫理的に、多くの問題を孕んでいる。
だが被験体自身がそれを望んでいるのなら、その問題はクリアされる。
科学の歴史は、そうして研究に身を捧げた者たちによって進歩してきた。

私の存在は、機密事項として秘匿された。
私は研究に身を捧げ、職場の仲間たちもそれに応えてくれた。
自らを被験体とした、実験に次ぐ実験の日々。私の脳をスキャンする事により得られる、膨大なデータ。それらはヒューロンの研究を、飛躍的に進歩させた。

研究が進むにつれ、私は自分自身の特質を、徐々に制御できるようになっていった。
XMが見える『スキャナ的視界』と、普通の人と同じ『通常視界』。それらを自分の意志で切り替える事が出来るようになったのだ。

幼い頃から、私にかけられていた呪いは解けた。
私は他の人々と同じ世界を、自らの意志で見られるようになった。
ヒューロンとの出会いは、私を孤独から救ってくれた。私の人生は充実していた。