――遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
道警の刑事に、古田警部は犯人を引き渡した。
両手を手錠で繋がれ、連行されていく犯人を見ながら、警部が言った。
「さて誠、後は手柄を譲るとして、俺らは退散するか」
「譲っちゃうんですか? けっこう頑張ったのに」
「逮捕に至るまでの経緯を、道警には説明できんだろ。面倒に巻き込まれる前に去った方が利口よ」
確かに道警でも能力の実演をする羽目になるのはゴメンだった。
「……なんでこんな事したんですかね。あんな凄い力を持ってるなら、他に活かす道もあったろうに」
「さぁな。まぁイカレた奴の心なんざ、本人にしかわからんから――」
警部がそう言いかけた時、それを遮る声が上がった。
「いや、お前ならわかるだろ? なぁご同類?」
犯人が振り向き、僕の方を見据えていた。
「ど、同類……? 僕がお前と同じだってのか?」
「そうさ、俺には判るぜ。お前も俺と同じような人生を、送ってきたんだろ?」
「……!」
「人と違う力を持っていても、それは枷にしかならねぇ。人とも世界とも、まともに関わる事が出来ねぇ。違うか?」
心臓が絞られるようだった。黙り込む僕に、奴が続ける。
「俺もお前も異端者だ。この世に俺たちの居場所はない」
「そんな事……わかってる!」
「ははっ、お互い苦労するな。まぁ頑張れよお前も、俺みたいにならねぇようにな」
犯人は笑い声を上げながら、警官たちに連行されていった
呆然と見送る僕の肩を、警部がぽんと叩いた。
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――こうして札幌の『事件』は、人知れず幕を閉じた。
後に警部から聞いた話によれば、奴は取り調べで、全面的に犯行を認めたらしい。全く反省はしておらず、むしろ清々しい様子だったそうだ。
ずっと隠してきた力を、思う存分使ったからだろうか? 賞賛すべき事ではないけど、僕にはその気持ちが何となく理解できた。
ちなみに警部が助けた女性は死の淵から生還し、無事だったらしい。
札幌まで来た甲斐あって、僕らは一人の命を救ったという事になる。それは良かったけど、僕の胸にはしこりが残った。犯人が最後に言っていた言葉が引っかかっていたからだ。
『この世に俺たちの居場所はない』
その言葉は新たな呪いとなって、僕の心に刻まれた
結局事件を解決しても、幼い頃から架けられた呪いは、やはり解けなかったのだ……。
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事件の後、東京に帰った僕と警部は、今まで通りの日常に戻った。
変わった事があったとすれば、札幌の事件を解決した事で、警察上層部の信頼を得られた事。その後も僕にはしばしば、捜査協力の依頼がくるようになった。
それ以外は特に変化はない。待遇は『試験運用中の特別捜査官』のままだし、報酬が上がるわけでもなかった。
まぁそういうものだろう。多少仕事を頑張った所で、僕を取り巻く世界までもが、簡単に変わる訳はない。
僕は今まで通りの日々を過ごす。日がな一日オンラインゲームにいそしみ、カップラーメンをすする毎日を。
そんなある日、久しぶりにスマホが鳴った。
着信を見ると『古田警部』。僕がため息をついて電話に出ると、警部の声がした。
「誠か? 喜べ、新しい仕事だ」
「また事件ですか?」
「ああ、ある研究所で爆発事故が起きてな。現場に不審点が多いんで、お前の力を借りたい」
「わかりました、今行きます……でも、うまくいくかは、わかりませんよ?」
そう答えつつ、手袋をはめる。そしてスマホを手に、家を出た。
――その少し後になって、僕は知る事になる。
僕が札幌で遭遇した男が、『センシティブ』と呼ばれる存在である事を。そして奴が犯行に選んだ現場が、『ポータル』と呼ばれる場所であった事を。
そうしてポータルを巡る旅の中で、僕は彼女たちに出会う。僕の呪いを解いてくれた、二人のセンシティブに。
だけどそれを知るのは、まだ少し先の話だ。
まだ自分の運命を知らぬまま、僕は新たなポータルに向けて歩き出した。
【Continued to 『Ingress the Animation』...】