REAL-TIME STORY

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⑦:『翠川誠の捜査』
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北海道新千歳空港に着いた時には、すっかり陽は沈んでいた。
快速列車に乗り、札幌副都心に向かった。
バスに乗り換え、市郊外の『森林公園』という場所に移動する。

そこが第一の殺人現場らしい。公園の入口には地元の警官が張っていたが、古田警部が警察手帳を見せて何か言うと、すんなり中に通してくれた。

現場に続く長い道を、警部と二人で歩く。
公園というにはあまりにも広く、どこまでも広がる森の中に、噴水や遊歩道が備えられている。
歩きながら、警部が説明する。

「ここは北海道が開拓される前からあった原生林が、当時のままの姿で保存されてるらしい。日本最大級の原生林の一つを、そのまま公園にしたそうだ」
「はぁ……さすが北海道、スケールが大きいというか……」
「だがこの美しく雄大な公園が、死で穢された。よりにもよって、この公園最大の人工物の前でな」

警部がそう言って、道の先に目をやる。
暗くて気づかなかったが、道の先に何か、巨大な影がそびえ立っているのが見えた。

「な、なんすかあれは……!?」

公園の奥に、高さ100mはあろうかという、鉄製の塔が立っていたのだ。
周りは池で囲まれており、水面に月が映って揺れ、神秘的な光景となっている。

「『百年記念塔』――北海道の開拓百周年を記念し、半世紀ほど前に作られたモニュメントだ。2週間前、この塔の足下で、男性の遺体が発見された。第一発見者は塔の管理人だ」
「死因は?」
「検死の結果は『心臓麻痺』だった為、当初は単なる事故と処理された。だがガイシャは至って健康で、心臓にも病気はなかった。しかもそれから二週間の間に、全く同様の状況で死んだホトケが、次々と出てきた」
「同様の状況って……健康なのに、心臓麻痺で死んだ人が次々と?」
「ああ、さすがに異常だという事になり、道警は殺人・死体遺棄の可能性も視野に捜査を始めた。だがいくら捜査しても、犯人の手がかりどころか、手口も凶器も判らない。完全に手詰まりになっちまった訳だが、そこを探るのが俺たちの役目だ」
「……」
「お前の能力なら、この塔に触れる事で、ここで起きた事を探る事が出来るんじゃないのか? それが出来さえすれば、事件はすぐに解決するんだが……」

僕は静かに首を振った。

「買いかぶりです、警部……僕の能力は、そこまで万能じゃありません」
「何?」
「まず僕が記憶を読み取れるのは、『ものに触れた部分からごく近距離』に限られます。こういう大きな建築物とかは、触れても読み取れない事がほとんどなんです」
「それは初耳だぞ」

警部は驚いたが、それは本当だった。
一定以上大きなものには触れても能力が発動しない。理由はわからないが、そういうものなんだから仕方ない。

「それに力の制御も難しい。触れた物の記憶は、大量に僕の頭に流れ込んできますが、知りたい記憶が読めるとは限らないんです。その時の調子や、運に左右されるというか……」
「うぅむ、先に言ってくれよ……だがせっかく来たんだ、試してみたらどうだ? 何か事件解決に繋がる光景が、見えるかもしれんし」
「そうですね……このまま帰るのも……ですし」

そう言って池を迂回し、塔に歩み寄る。
右手の手袋を外し、塔の錆びた鉄肌に触れると――、
そこで起きた事の『記憶』が、頭の中に流れ込んできた。