REAL-TIME STORY

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⑨:『翠川誠の巡礼』
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その日はもう夜遅かったので、翌日から捜査を再開する事にした。
カプセルホテルに泊まり、警部と一緒に、他の3つの殺人現場を巡った。いずれも札幌市内の観光地だった。

まずは『北海道庁旧本庁舎』。赤レンガの道庁とも呼ばれるその建物は、北海道開拓時代に建てられた、札幌のシンボルの一つだ。
その裏手で第二の死体は見つかった。最初の犠牲者と同じように、外傷はない状態で発見されたらしい。

次に『札幌市時計台』。言わずと知れた札幌のランドマークだ。
第三の死体は、この中で発見された。発見者は観光客。白昼堂々の犯行だったようだが、犯人らしき者は見つかっていない。

最後に『北海道神宮』。開拓の神を祀る、札幌最大の神社。
第四の死体は、その境内で見つかった。犠牲者の死因も発見された時の状況も、他の現場と全く同じ。手がかりがないのも一緒だ。

僕はその各現場で、それぞれ能力を使い、犯行時の「記憶」を読んだ。
見えた状況は例によってノイズだらけで、はっきりとは見えなかった。犯人が犠牲者たちを『手を触れただけで』殺しているのは間違いないようだけど、肝心のその顔が確認できない。
僕と警部は肩を落としつつ、現場を後にしたのだった……。

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北海道神宮を出た頃には、陽が沈みかけていた。休憩も兼ねて、近くのラーメン屋に入る。
味噌ラーメンを注文して席につくと、どっと疲れが出た。大きく息をつく僕を見て、警部が珍しく心配そうな顔で言った

「疲れたよな?」
「え、ええ……例の力を一日に何度も使ったのは、初めてでしたから……」
「やっぱり体力使うのか、アレって」
「体力って言うか、精神力ですかね……MP切れかけですよ」

そう話している間に、味噌ラーメンが運ばれてきた。

「しかもあれだけ現場の記憶を読んでも、犯人の手がかりは結局掴めないってんじゃ……せっかく札幌まで来ても、無駄足ですよね」
「いや待て誠、わかった事もあるぞ。犯人は同一犯であるという事。そして各事件は偶然続いた事故ではなく、紛れもなく連続殺人だと言う事だ。その確証を得られたのはデカい」
「まぁ、確かに……」

実際、心臓麻痺で死んだ人が続いたってだけじゃ、警察は動けないだろう。そういう事件だからこそ、僕らがわざわざ東京から呼ばれたのだ。
警部は手帳を取り出し、各現場でメモした事を見つつ続ける。

「もう一つ、これはお前の力とは別に分かった事だが、犯行現場には共通点がある」
「観光地って事ですか?」
「それもあるが、正確には違う。現場にはいずれも、『長い歴史を持つモニュメント』があるって事だ」
「あ……!」

確かに最初の現場『百年記念塔』も含め、4つの犯行現場は、全てそれに該当していた。警部はそこに目をつけたらしい。

「そこが気になるんだ。犯人はなぜわざわざ、そんな場所を犯行現場に選んだ?」
「何か思想的な理由があるとか……?」
「どういう思想だよ。だいたい思想犯なら犯行声明の一つも出すだろうに」

言われてみれば確かに、動機がよくわからない。
犯人が単なる目立ちたがり屋なら、メジャーな観光地ばかりを選ぶだろう。だがさほど有名じゃない場所も含まれている所を見ると、何らかの意図が感じられる。

(犯人はどんな奴なんだ……なぜそんな場所ばかり選ぶ?)

警部の携帯が鳴った。ラーメンを食べる手を止め、警部が電話に出る。

「こちら古田――何!?」

その瞬間、警部の表情が強張った。「どうしたんですか?」と聞く僕に、警部が苦い声で言う。

「誠、5人目の犠牲者だ」