REAL-TIME STORY

----------------------------------------
①:『サラの遺言』
----------------------------------------

『何かが大きく間違っている。世界は君が見たままのものとは限らない』
そう言い始めたのは、誰だっただろう?

その間違いが何なのか、私にはわからなかった。
私はどこで間違ったんだろう?
ヒューロンに入社し、XMエギゾチック・マターの研究を始めた時?
被験者たちの、担当研究員になった時?
それとも『センシティブ』として、この世に生まれた時……?

今となってはわからない。だけど、私の人生が過ちに満ちていたとしても、それを正す事は出来る。
そう思いながら、東京の街を独り歩く。

午前0時の品川駅前。周囲の道行く人々は、誰も私の事など気にしていない。
それでも、見られている感覚がある。私は『彼ら』に気取られないよう、そっと視線を走らせる。
街のそこかしこに仕掛けられた、街頭防犯カメラ。そのいくつかが私の方を向いていた。

(やっぱり、監視されている……!?)

背筋に悪寒を感じながら、私はかすかに足を速めた。
被害妄想だと笑う人もいるだろう。『街頭カメラが自分を監視している』なんて、そんなバカげた話は有り得ないと。
だけどそれは、決して考えられない話じゃない。敵の大きさを考えれば、十二分にその可能性はある。

私が立ち向かおうとしているのは、ヒューロン・トランスグローバルという巨大組織だ。
XMを研究する傍ら、その利権を独占するため、数多の命を奪ってきた企業。既に私の知る限りでも、たくさんの人々が消されている。
司法当局にも顔が利き、マスコミさえも裏で牛耳る彼らだ。反乱分子を排除するためなら、手段を選ばないだろう。

今私には、居場所がない。
東京はおろか、世界のどこにも、安らげる場所はないと感じている。
エンライテンドにもレジスタンスにも、ヒューロンの手は及んでいる。どちらの陣営にも、保護してもらう事は出来ない。
『Ingress』をただのゲームと信じている、たくさんの罪もないエージェントたちを、私の闘いに巻き込む事は出来ないのだ。

ふと、足を止める。
行く手に小さなお寺が見えた。『法禅寺』、600年以上もの歴史を持つ古刹。
私の眼にはその本堂が、白い光に包まれているのが見える。多次元世界から溢れ出す、XMの光に。

私はそのポータルを見つめ、密かに祈る。
もしも私以外にも、このポータルを訪れる人がいたなら。
世界に満ちるXMを介し、私の想いに触れてくれた人がいたなら……。
どうか気づいて欲しい。世界が今、危機に曝されている事に。

たとえ私が志半ばで倒れたとしても、誰かがこのメッセージを受け取ってくれたなら、私の死は無駄にならない。
だからどうか、忘れないで。
世界はあなたが見たままのものとは限らない。あなたが知らない所で、大きな過ちが進行している。
それを止める事が出来るのは、あなただけなのかもしれないと。

私の名は、サラ・コッポラ。
生涯を通じてXMを見続けてきた、無力なセンシティブ。
このメッセージが誰かに届く事を、心から願う――。