百年記念塔に触れる事で、読み取った記憶――
ノイズ交じりの闇の中に、二つの人影がある。恐らく犯人と被害者だろう。
犯人と思しき人影が、被害者に歩み寄り、そっと手を伸ばす。
その手が触れた瞬間、被害者の体がわずかに震えた。
すると操り人形の糸が切れたように、被害者の体から力が抜け……
ゆっくりと、その場に崩れ落ちた。
************************
「……!?」
警部が問いかけてくる。
「どうだ、何か見えたか!?」
「え、ええ、一応……犯人っぽい奴が手を触れた瞬間、被害者が倒れるのが」
「何だと……!? やっぱり偶然の死じゃなく、殺人だったんだな!?」
僕にしか見えない光景である以上、証拠としては提示できないが、殺人事件である事は間違いないだろう。警部は更に身を乗り出す。
「それで凶器は? 犯人の顔は?」
「顏ははっきりとは見えませんでした。体格からして、男のようでしたけど……凶器は多分なしです。手で触れただけで、人が倒れて」
「はぁ……?」
僕の言葉に、警部も困惑しているようだった。ガリガリと頭を掻き、忌々しげに呟く。
「触れただけで人を殺す……ねぇ? まさか犯人は、超能力者とかってオチじゃないよな? お前と同じ? この国はそんなに超能力者がゴロゴロいるのかねぇ」
「ミステリー小説でそんなオチなら本投げられますけど」
「モノホンの超能力者が言う事か?」
苦笑する警部を見て、僕も釣られて笑う。
「……警部。この事件の事は、地元の人には広まってるんですか?」
「殺人と断定する証拠が未だ出ていない以上、事件としては報道されていない。市民たちにはまだ知られていない」
「つまり、僕らが早く犯人を突き止めないと――」
「ああ、新たな被害者が出る可能性がある」
僕の胸に、何か湧き上がるものがあった。
それは正義感ってヤツとは違うし、もちろんデカ魂などというものでもない。
ただ漠然とした――『この事件を解決できるのは僕だけだ』という直感だ。
(もしもこの事件を、解決する事が出来たなら……今まで悩まされ続けていた自分の力を、肯定する事が出来るかもしれない……)
それは僕にとって、闇の中の光明に思えた。極めて個人的な理由だとしても、それを追ってみたい。
「……警部、他の現場に行きましょう。こうして事件の記憶をいくつも集めれば、犯人に近づけるかもしれない」
「ああ、俺もそう思っていた。行くぞ誠」
僕らは公園の出口に向けて、歩き出した。